第二十二回 徳 virtus 人間を動かす力
■ 対神徳…「神の本性にあずからせていただくようになるため」(Tペトロ1章4節)に、神さまから与えられ、神さまを目指す徳のことで、「信仰・希望・愛」である。
- 信仰 fides…神さまを信じ、教会を通して伝えられる神さまの教えを信じる徳。信じていることを証言すること、信じていることに基づいて生活することを含む。「魂のない肉体が死んだものであるように、行いを伴わない信仰は死んだものです」(ヤコブ2章26節)。絵画では燃える心、ロウソク、十字架、聖書などのシンボルによって描かれる。
- 希望 spes…キリストが約束した天の国(神さまの支配)と永遠の幸せを望む徳。山上の説教(マタイ5章)参照。何が起こっても絶望しない。「約束してくださったのは真実な方なのですから、公に言い表した希望を揺るがぬようしっかり保ちましょう」(ヘブライ10章23節)。象徴は錨(ヘブライ6章19節参照)、鳩、舟、陣中旗、花や果物を入れた角など。
- 愛caritas…神さまを何にもまして愛し、隣人を自分自身のように愛する徳。キリストは自身を模範とした掟としてこれを命じている。「わたしがあなたがたを愛したように、互いに愛し合いなさい。これがわたしの掟である」(ヨハネ15章12節)。、「信仰と、希望と、愛、この三つは、いつまでも残る。その中で最も大いなるものは、愛である」(Tコリント13章13節)。小羊、子ども、ペリカン、パンなどで象徴される。
■ 倫理徳…理性と信仰によって身につける、人に対する徳。聖書ではさまざまに表現されるが、教会は伝統的に「賢明・正義・剛毅(勇気)・節制」を枢要徳と呼び、すべての徳を結ぶものと考えている。「だれか正義を愛する人がいるか。知恵こそ働いて徳を得させるのだ。すなわち、節制と賢明、正義と勇気の徳を、知恵は教えるのである。人生にはこれらの徳よりも有益なものはない」(知恵8章7節)。
- 賢明prudentia… auriga virtutum(諸徳の導き手)と呼ばれ、他の徳を律するものと考えられている。為すべき善と避けるべき悪を見分け、良心の判断を支える。図化されるときのシンボルは蛇(マタイ10章16節参照)、鏡、炎(松明)、棺(シラ7章36節参照=Memento
mori)などである。
- 正義justitia…神への義務を神に、隣人への義務を隣人に果たす徳。変らない意志に基づくもの。シンボルは天秤、定規、地球儀、法律書など。
- 剛毅(勇気)fortitudo…困難があっても善を行い続ける徳。誘惑と戦い、妨害を乗り越え、善のために死の恐怖にさえ打ち勝たせるもの。「あなたがたには世で苦難がある。しかし、勇気を出しなさい。わたしは既に世に勝っている」(ヨハネ16章33節)。絵画では騎士の鎧、剣、ライオンの皮、サムソンが倒したという柱などで表される。
- 節制temperantia…楽しいことばかりに惹かれる心を慎ませ、被造物をバランスよく用いさせる徳。意志を感覚のままに放置しない。「欲望に引きずられるな。情欲を抑えよ」(シラ18章30節)。水とぶどう酒の器、乗り物としてのラクダや象、砂時計、風車などがシンボルとして使われる。