嘉松宏樹
カトリック教会は紀元2000年の今年、大聖年Jubileを祝っています。あちらこちらの聖堂で入口や祭壇の傍にJubile
2000のロゴマークが入った幟を見かけた方も多いことでしょう。
旧約聖書のレビ記25章に「ヨベルの年」と呼ばれる解放の年の規定があります。ヨベルとはもともと「雄羊の角」という意味で、解放の年が明ける際に鳴らされる角笛のことを指しました。解放の年は、7年毎の安息年が7回めぐったとき、すなわち50年毎に設けられ、土地の安息・負債の免除・奴隷状態からの解放が宣言されるよう定められていました。文字通り実践されたかどうかは定かでないにしても、この世のものは神さまからの預かり物で、人はこの世に寄留するものにすぎないという精神は、現代でもその価値を失なっていません。かえって、所有と支配に全エネルギーを注いでいるような現代にこそ、もっと注目されてよいものだと言えるでしょう。ケルンサミットの機会にJubile
2000キャンペーンとして、国際債務の免除を願う署名が全世界から寄せられたのは記憶に新しいところです。
カトリック教会の聖年の制度は、西暦1300年、教皇ボニファチオVIII世によって定められました。25年毎にヨベルの年の精神をキリスト教的理解に基づいて実践しようというものです。個人としてまた人間共同体として悪から解放されるように、神さまと隣人に赦しを願うこと、ならびに社会的な抑圧から人間を解放するために正義と愛の行動をとることを強く勧めています。
巡礼は、神さまに向かうあるいは神さまのもとに帰る歩みを表す行動の一つで、聖年には世界各地に巡礼指定聖堂が設けられています。たとえばパリ市内では、Cathedrale
Notre-Dame de Paris (4e), Basilique du Sacre-Coeur de Montmartre (18e),
Notre-Dame des Victoires (2e), Saint-Etienne du Mont (5e), Saint-Sulpice
(6e), Notre-Dame de la Medaille Miraculeuse (7e), Saint-Louis d'Antin
(9e), Notre-Dame de Fatima Sanctuaire (19e) の8箇所がこれにあたり、巡礼者は一定の条件のもとに免償(罪の償いの免除)を受けることができます。
またJubileはラテン語のjubilare(祝う)という語を連想させることから、慶事50周年を金祝、25周年を銀祝といったように、記念祭の意味を持つようにもなりました。ですから、紀元2000年の今年は、解放の年であると同時にキリストがこの世の歴史に誕生なさった2000年を祝う記念祭の年でもあるのです。
今年も間もなく復活祭を迎えます。キリストの復活こそ、神さまの力によって人間が罪と死から解放される何よりの証です。ですから信じるすべての人にとって、この解放の年・歓びの年である今年の復活祭は特別に意味深いものになることでしょう。わたしたちの共同体では作曲家の岡田信浩さんが受洗の恵みを受けられます。洗礼は人間をキリストの解放に結びつける絆であり、信じるすべての人の絆ですから、大聖年を過ごすわたしたちの共同体にとって今年の洗礼式は大きな歓びを共にする時です。「おめでとう」の挨拶を深く味わう機会になることでしょう。
冒頭でふれたJubile 2000 のロゴマークは、キリストのメッセージが全世界へゆきわたることを祈念しています。青い円は地球を、組み合わされた5羽の鳩は諸民族の一致と五大陸を、十字架はすべての人を悪から解放するために命をかけたキリストを意味し、十字架の三本線は三位一体を、中央からの光は世の光キリストを表しています。またラテン語で「キリスト・昨日・今日・永遠に」を意味するChristus,
Heri, Hodie, Semper (フランス語はChrist, Hier, Aujourd'hui, A jamais)という言葉は、新約聖書の「ヘブライ人への手紙」13章8節からのもので、永遠に変らない神さまの真理を表しています。
Jubile 2000。その精神を心に刻んで過ごしていきたいものです。
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