劣化ウランの危険性について
−コソボ・イラク・沖縄−

湯沢慎太郎

 

皆様もご存知と思いますが、最近テレビや新聞で劣化ウランの問題がよく報道されます。

ここでその主な点をまとめてみます。

200011月、1999年にコソボに派遣されたイタリア兵のうち白血病による死亡者が6人に達し、イタリア政府はアメリカ軍の使用した劣化ウラン弾[1]の放射能が原因ではないかと疑い、20011月、NATOに情報公開を求めました[2]。他の同盟国では、ベルギーでは5人の兵士がガンで死亡しており、フランスでは4人が白血病にかかっています。1999年にコソボ紛争においては31000発ほどの劣化ウラン弾が発射されました。

 これに対しNATO側は、劣化ウラン弾は天然ウランよりも放射能が低いほどで[3]、健康にまったく影響のない安全で合法的な武器であると反論し、イタリア政府の懸念を科学的根拠のない」ものと断定しました。

 ところが、劣化ウラン弾の危険性はNATOにとっては「公然の秘密」だったのです[4]。 着弾の衝撃で飛散する粒子の危険性についての警告は1996年のアメリカ軍の文書中にあり[5]、これはNATOにも伝えられていました。体内に入った劣化ウランの放射能がガンを発生させることは、実験的に証明されています[6]

 アメリカ軍およびNATOのかくしていることはさらにあります。コソボで使用された劣化ウラン弾を分析したスイスの研究者たちは、微量(0.0028%)のウラン236を検出しました[7]。この元素は自然には存在しませんから、この劣化ウランは使用済み核燃料の再処理工場から来た事を意味します。するとこれには確実にプルトニウムが含まれています[8]。プルトニウムはごく微量でも人体に非常に危険な放射性物質です。

劣化ウラン弾は1991年、湾岸戦争において初めて使用されました。ところがすでに19907月、アメリカ軍によって作成された報告書は、劣化ウラン弾が非常に強力な対戦車兵器であることを認めつつも、その飛散する粒子を吸入した場合には放射能によるガンの発生の危険があり、世論によって使用を禁止される恐れがあると指摘していたのです[9]

 しかしこの警告は無視され、6ヵ月後の1991年、イラクに対し合計320トンの劣化ウランが投下されました。アメリカ兵たちはその危険性を一切知らされることなく、破壊されたイラク軍の戦車の中に入ったりしたことを多くのアメリカ退役軍人が証言しています[10]。そして派遣された70万人のアメリカ兵のうち、現在14千人、つまり2%がガンになっています。

 そしてイラクにおいて異常出産の数が3.5倍になったという悲惨な事実を現地で人道的救援に携わっているJean-Marie Benjamin神父(Fondation Beato Angelico の事務局長)は訴えています[11]

 日本においても1995年、沖縄県のアメリカ軍鳥島射爆場で1520発の劣化ウラン弾が誤射された事件が1997年に明るみに出ました[12]。しかし日本の科学技術庁は放射能などの「影響はまったくみられない」と報告しています。

 また劣化ウランはBoeing 747Douglas DC-10などの尾翼のバラストとして一機に400kg使用されています。1992年、アムステルダム近郊にBoeing 747の貨物機が墜落しましたが、その後付近の住民の健康に異常がみられることが報道されています[13]

 劣化ウランの危険性について「科学的根拠がない」と彼らがいうのは確かに嘘ではない。つまり戦略的、経済的理由から科学的調査をかくし、中止したのです。

 真実を知ろうという確固たる意志を持ち続けることだけが、真実を明らかにするのです。

 

2001年2月26日


[1] 劣化ウラン( Uranium appauvri )とは、ほとんどウラン238から出来ており、天然ウランから核燃料となるウラン235を取り出す濃縮処理の「廃棄物」です。放射能は危険性の少ないアルファ線(衣服・皮膚によってさえぎられる)が主ですが、重金属としての毒性は高い。比重が非常に高いため、戦車などを破壊するための砲弾に使われます。

[2] "Le gouvernement italien somme l'OTAN de s'expliquer" Le Monde, vendredi 5 janvier 2001

[3] 誤解をまねく用語ですが、天然ウランといっても自然にあるわけではなく、ウラン鉱石から化学的に抽出されたものです。比較するとウラン鉱石の放射能はキロ当たり3百万ベクレル(Bq/kg)、天然ウラン5千万ベクレル、劣化ウラン4千万ベクレルです。

[4] "Uranium appauvri : ce que les états-majors de l'OTAN savaient." Le Monde, vendredi 12 janvier 2001

[5] manuel d'instuction de Chemical Army Division, 1996-1997

[6] A. Miller, Environmental Health Perspective , août 1998

[7] "L'uranium appauvri provient d'usines de retraitement". Le Monde, jeudi 18 janvier 2001

[8] 原子炉内で劣化ウランの主成分であるウラン238は中性子を吸収してプルトニウム239になります

[9] "Après la guerre du Golfe, le Pentagone a multiplié les faux-fuyants et les propos incomplets. " Le Monde, vendredi 12 janvier 2001

[10] Dan Fahey Report on Depleted Uranium. www.idir.net/~krogers/fahey.html

[11] "Trois questions à... Jean-Marie Benjamin" Le Monde, vendredi 12 janvier 2001

[12] 「劣化ウラン弾 被曝深刻」 中國新聞 特集

www.chugoku-np.co.jp/abom/uran/index.html

[13] "De l'uranium appauvri dans les avions de ligne." Science et Avenir, février 2001