四旬節第2主日

マタイによる福音 17・1〜9
2005年2月20日


綱渡りの曲芸師がいました。
彼は一度も綱から落ちたことがありませんでした。
ある日、曲芸師はナイアガラの滝の上で綱渡りをやって見せてくれという依頼を受けました。快くその依頼を受け入れた曲芸師はたくさんの人々が見守る中、綱に乗りました。彼が一歩一歩歩み出ると、人々は一斉に息を殺しました。失敗すれば奈落の底へ落ちてしまうかも知れない、ひやひたした瞬間でした。曲芸師が反対側に着いた時、人々は惜しみない拍手を送りました。額に流れる汗を拭いながら曲芸師は言いました。
「みなさん、私は綱に乗って滝を無事に渡りました。みなさんは私がもう一度反対側に戻ることができると信じますか?」 すると、人々は信じるという意味でもう一度拍手を送りました。
曲芸師はしばらく何か物思いに耽った後、もう一度聞きました。
「私を信じてくださって、ありがとうございます。では、皆さんの中で私と一緒に向こう側へ渡ることのできる方は私の肩に乗ってください。!」
しかし、名乗り出る人は一人もいませんでした。顔色をうかがい合っていた人々の間から誰かが手を挙げて歩み出ました。小さな男の子でした。曲芸師は少年にそっと笑い顔で答えました。間もなく曲芸師は少年を肩に乗せ綱を渡り始めました。ゆらゆらと綱が揺れる度に人々は肝を冷やしました。しかし、少年の顔からは恐怖感は一つも感じられませんでした。綱渡りはまたしても成功しました。
曲芸師は少年を降ろすと、人々は我先にと少年の勇気を称えながら聞きました。「坊や、怖くなかったかい? 落ちたらどうするつもりだったんだ?」少年はにこにこと笑いながら答えました。
「落ちるなんて思っていなかったよ。だって、僕はお父さんを信じていますから。」

今日の第一朗読にはアブラハムが登場します。
神様を固く信じていたアブラハムは、生まれ故郷を離れて神様が準備された場所に行きます。ユダヤ教ではもちろんの事、キリスト教やイスラム教でもアブラハムは信仰の先祖です。
イエス様を直接目にした初代教会の時代にもアブラハムの信仰を見習うようにと強調しました。このようにアブラハムが信仰の父として人気を集めることができたのはどうしてでしょうか?アブラハムが時代と空間を越えて尊敬の対象になったのは彼の美しく高貴な信仰心のためでした。「アブラハムは神を信じた」これこそが彼の人気の秘訣です。
先ほどの話で、少年は曲芸師である父を信じたので躊躇することはありませんでした。信仰心の弱いこの時代にあってアブラハムはさらに尊敬されるべき聖人と言えるでしょう。私たちもアブラハムの信仰を見習い充実した四旬節を過ごす事ができるように努力しましょう。

アーメン

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